物件の内見に行って気に入ってしまうと、頭の中が「ここに住む自分」の想像で占拠される。それ自体は自然な心の動きだが、その状態で管理費や修繕積立金の詳細を聞けているか、ハザードマップを開いたことがあるか、と後から振り返ると、案外できていないことが多い。

本記事は「物件に気に入った感情を持ちながら、それでも立ち止まって確認してほしいこと」を整理したものだ。気に入った物件ほど、あとから効いてくるものは見落としやすいからこそ、先に確かめておきたい。重要事項説明の場で宅建士に何を聞くか、長期修繕計画のどこを見るかといった、具体的な確認行動に落とし込めるように書いた。「管理や修繕の問題は自分には関係ない」と感じている人にこそ、少し目を通してほしい。

マンションと確認用チェックリスト・地図のイラスト

気に入った瞬間、見なくなるもの

不動産会社の担当者と内見を終えて「ここいいな」と思った帰り道に、「エレベーターのボタンがくすんでいたな」とか「共用廊下の蛍光灯が1本切れていた」とか、そういう細部をはっきり覚えている人は少ない。でもその細部に、管理状態が出ている。

購入後に「思っていたより管理費が高くなった」「修繕積立金がこんなに上がるとは知らなかった」「ハザードマップで見たらこのエリアは浸水想定区域だった」という後悔は、決して珍しくない。重要事項説明書を受け取る段階で初めて知る、というパターンが多いが、そこはすでに物件に気持ちが傾いている時点だ。

気に入る前、または気に入っても気持ちが落ち着いているうちに、この記事の確認項目をひと通り頭に入れておいてほしい。

修繕積立金は「今の金額」で判断しない

マンションの修繕積立金は、管理組合が長期修繕計画に基づいて積み立てる資金だ。外壁塗装・屋上防水・エレベーター交換・給排水管更新といった大規模修繕に使われる。

国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」は、積立方法を、計画期間中を通じて均等に積み立てる「均等積立方式」と、当初の積立額を抑えて段階的に値上げする「段階増額積立方式」に分けている。新築物件では後者が採用されていることが多く、入居当初の額だけを見て判断すると、将来の月次支出が想定を大きく超えることになる。

どのくらいの水準になるのか。同ガイドラインは366事例の長期修繕計画を分析し、専有面積あたりの月額の目安を示している。地上20階未満・建築延床面積5,000〜10,000㎡未満のマンションなら、平均は1㎡あたり月252円(事例の3分の2が収まる幅は170〜320円)。70㎡の住戸なら月1万8,000円前後という計算になる。20階以上では平均338円(同240〜410円)とさらに上がる。入居当初の額がこの水準から大きく下にある場合、その差はいずれ埋められる前提の計画だと考えたほうがいい。

国交省自身、段階増額積立方式について「増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する事例も生じていることに留意が必要です」とし、「将来にわたって安定的な修繕積立金の積立てを確保する観点からは、均等積立方式が望ましい方式といえます」と書いている。段階増額を採る場合の目安として、月あたりの徴収額は均等積立方式とした場合の額を基準に、初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内という考え方も示されている。ただしガイドライン自身が断っているとおり、これらはあくまで目安であって、範囲外だから直ちに不適切という話ではない。

確認すべきこと
修繕積立金の現行額だけでなく、「今後の増額予定」と「長期修繕計画における将来の必要積立額」を重要事項説明の場で宅建士に聞く。計画書の数値を見ながら、10年後・15年後の月額水準を確認しておくのが望ましい。

中古マンションの場合は、修繕積立金の総額(積立残高)が十分かどうかも見ておきたい。積立不足が生じていると、将来の大規模修繕時に一時金の徴収が発生するケースがある。管理組合の総会議事録や長期修繕計画の収支見通しで確認できる。

管理費が上がる仕組みを知っておく

管理費は、共用部の清掃・警備・設備管理・管理会社への委託費用などをカバーする。築年数が上がるにつれて設備の保守コストが増し、人件費や光熱費の上昇も加わって、管理費が段階的に引き上げられるマンションは少なくない。

購入時の月額管理費がそのまま続くとは限らない——これは頭に置いておいてほしい。国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)は、第48条で「管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法」を総会の決議事項として挙げている(「長期修繕計画の作成又は変更」も同じく総会決議事項だ)。標準管理規約に沿った規約であれば、管理費の改定は総会にかかるということで、総会の議事録(過去数年分)を確認すれば、値上げの傾向や管理組合の意思決定の様子が見えてくる。ただし実際の決議要件は各マンションの規約によるので、その物件の規約で確かめてほしい。

管理費・修繕積立金の詳細は、重要事項説明書および管理規約・長期修繕計画書で確認できます。入手できる場合は購入判断前に目を通してください。

ハザードマップを「見た」で終わらせない

「ハザードマップは確認しました」という人の中に、「見た」だけで「判断の材料にした」かどうかは別、というケースが多い。どのリスクが、どの程度の範囲に示されているかを読み取り、自分の生活設計の中でどう評価するかというところまでやって初めて「確認した」と言える。

確認すべきリスクの種類
洪水(河川・内水氾濫)、高潮、土砂災害、津波、液状化——それぞれ別のハザードマップで示されることが多い。国土交通省・国土地理院が提供するハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」は、洪水・内水、土砂災害、高潮、津波のリスク情報に加えて道路防災情報や土地の特徴・成り立ちを地図に重ねて表示できる。ただし液状化は、この重ね合わせの対象には含まれていない。液状化の想定は自治体が個別に公表していることが多いので、同サイトの「わがまちハザードマップ」から市区町村のマップに移るか、自治体のサイトで直接探すことになる。物件が「浸水想定区域」などの表示エリアに該当するかどうかを、実際に地図の上で確認してほしい。

ハザードリスクが高いエリアが悪いとは言い切れないが、少なくとも「知っていて選ぶ」と「知らずに選ぶ」では判断の質が違う。重要事項説明では、水害リスクに関するハザードマップの説明が義務付けられているが、説明を受ける際はどのリスクがどの程度かを自分でも事前に確認しておく方が、質問もしやすくなる。

ハザードマップは最新版を確認してほしい。治水工事・地盤改良・区域指定の変更によって更新されることがあるためだ。

重要事項説明書で宅建士に確認すること

重要事項説明は、物件について宅建士が法律に基づいて行う説明の場だ。聞き流してしまいがちだが、ここで宅建士に直接確認できることは多い。以下は、特に確認しておきたいポイントだ。

重要事項説明時の確認リスト(参考)
  • 修繕積立金の現行額と今後の増額予定
  • 長期修繕計画の収支状況(積立残高が計画と比べて足りているか)
  • 直近の大規模修繕の実施時期と次回の修繕計画
  • 管理会社名・管理委託契約の形態(全部委託か一部委託か)
  • ハザードマップに基づくリスク区域への該当有無(重要事項説明で義務づけられているのは、水防法に基づく市町村のハザードマップ上の位置、土砂災害警戒区域、津波災害警戒区域、造成宅地防災区域などの該当有無。液状化は法定の説明事項に含まれないので、気になるなら自分から聞く
  • 建物の耐震基準(旧耐震か新耐震か。1981年6月以降の確認申請が新耐震基準の目安)
  • アスベスト(石綿)使用の有無の調査結果(宅建業法上は、調査の結果が記録されているときにその内容を説明する、という建て付け。築年数で義務が決まるわけではなく、記録が無ければ「無い」と説明される)
  • 瑕疵担保責任・契約不適合責任の範囲と期間

このリストは一般的な確認項目の例です。物件の種類・築年数・状況によって確認事項は変わります。宅建士の説明をよく聞き、不明点はその場で質問してください。

重要事項説明書は量が多い。事前に「聞きたいこと・気になること」をメモにまとめておくと、限られた時間の中でも的を絞った確認ができる。

「管理組合が機能しているか」を見る手がかり

マンションの管理状態は、管理組合が機能しているかどうかに大きく左右される。管理会社に丸投げしているだけで組合活動が形骸化しているマンションと、住民が積極的に関与している管理組合では、長期的な建物の維持水準に差が出やすい。

とはいえ、外から見て管理組合の質を判断するのは難しい。いくつかの間接的な確認手段を挙げておく。

  • 総会議事録の閲覧を求める
    直近3〜5年分の定期総会の議事録を確認できる場合がある。決議内容・出席率・修繕関連の議論の有無を見ることで、組合の活動状況が見えてくる。
  • 管理規約・使用細則の状態
    長年更新されていない古い規約のままになっているマンションは、管理組合が実質的に動いていないサインのひとつかもしれない。
  • 共用部の「細かい」部分を見る
    エントランス・エレベーター内・駐輪場・掲示板の状態は、日常的な管理水準を示す。清掃が行き届いているか、掲示物が古いままになっていないかは、内見時に意識して見てほしい。
  • 管理費・修繕積立金の滞納状況
    重要事項説明で確認できる場合がある。滞納が多いマンションは、修繕資金の不足や組合運営への不満が背景にある可能性がある。

これらは「必ず問題がある」を示すものではなく、あくまで確認のヒントだ。気になる点があれば、宅建士または管理会社に具体的に聞いてみるのが一番確実だ。

仲介サービスの内容・条件は各社によって異なります。詳細は各サービス提供元でご確認ください。

確認に使える公式窓口

ハザードリスクの確認と、マンション管理に関して参照できる公的窓口を整理しておく。

  • ハザードマップポータルサイト(国土交通省・国土地理院)
    「重ねるハザードマップ」で洪水・内水、土砂災害、高潮、津波のリスク情報を地図に重ねて確認できる(液状化は対象外)。住所を入力して、その地点の災害リスクを調べるのに使いやすい。市区町村が法令に基づいて作成・公開したマップへは「わがまちハザードマップ」から辿れる。
    disaportal.gsi.go.jp
  • 国土交通省「マンション管理」関連情報
    マンション管理適正化法・長期修繕計画のガイドラインなど、公的基準を確認する際の参照先。
    国土交通省 マンション管理

おわりに

「気に入った物件を買って後悔した」という話のほとんどは、判断の前に必要な確認をしなかった——あるいは確認できる状態にいなかった——という話だ。修繕積立金の段階増額も、管理費の上昇傾向も、ハザードリスクも、事前に知っていれば「それでも選ぶ」か「別を探す」かを判断できる。知らずに選ぶのとは、まったく違う。

本記事に書いたことは、物件の良し悪しを決めるものではない。「知っていれば選べる」状態を作るためのチェックリストとして、また内見前・重要事項説明前の準備として使ってほしい。ひと手間かけて確かめておくと、住み始めてからの安心が、少し違ってくる。ローンや諸費用の全体像についてはローンと諸費用の全体像を、相場の見方については首都圏のエリア相場と資産性の見方を参照してほしい。

参考

  1. 国土交通省・国土地理院「ハザードマップポータルサイト」
    https://disaportal.gsi.go.jp/
  2. 国土交通省「マンション管理」
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html
  3. 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(PDF)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747009.pdf
    均等積立方式と段階増額積立方式の定義、段階増額積立方式についての留意(合意形成ができず不足する事例)、初期額0.6倍以上・最終額1.1倍以内という引上げの考え方、専有面積あたりの修繕積立金の目安額(366事例の分析)を参照。
  4. 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」令和7年改正(PDF)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001999013.pdf
    第48条(議決事項)で「管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法」「長期修繕計画の作成又は変更」が総会決議事項とされていること、第49条で議事録が組合員・利害関係人の書面請求により閲覧できるとされていることを参照。
  5. e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」第16条の4の3
    https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000800012
    重要事項説明の対象として、水防法施行規則第11条第1号に基づき市町村長が提供する図面上の所在地(第3号の2)、土砂災害警戒区域(第2号)、津波災害警戒区域(第3号)、造成宅地防災区域(第1号)、石綿使用の有無の調査結果が記録されているときのその内容(第4号)、昭和56年6月1日以降に新築工事に着手したものを除く建物の耐震診断の内容(第5号)が定められていることを参照。液状化は同条の項目に含まれない。
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